2011年12月アーカイブ

20111212.2.jpg昨日1210日は、皆既月食であった。時間をかけて自分の目ですべてを確認したのは初めてであったので、典型的なものであったらしいが、久しぶりに感激を味わった。

特に、皆既月食となった夜11時過ぎには、月は真っ暗にならずに淡い赤の玉のようになった。月が赤くなることに感動したが、これも既に知られていることのようで、"赤い光が月を照らす:皆既月食中の月は、赤銅色ともいわれ、赤っぽい色をしています。月が地球の影に入っても完全な真っ黒にはなりません。その理由は、太陽光が地球の大気によって屈折や散乱され、うっすらと月面を照らすためです。赤くなるのは、朝焼けや夕焼けの原理と同じように波長の長い赤い光のほうが大気中を通過しやすいためです"とHPに掲載されている。

 

20111212.3.jpg

また、昨夜は、いつもと違って周囲の星座が極めて美しかった。これも、"満月ほどの月明かり"があると、星空を見るのに条件がよいところへ行っても暗い星はかき消されてしまいますが、皆既中はその月明かりがなくなるので、たくさんの星々を見ることができます"とのことである。

私の人生の中では、初めて確認した"赤い玉""美しい星空"であったが、これはすでに長い間多くの人々が確認したことであり、私も実体験をして仲間入りしたことに満足している。

 

 

ウィキペディアによれば、"月食(げっしょく、月蝕英語: lunar eclipse)とは地球太陽の間に入り、地球のが月にかかることによって月が欠けて見える現象のことである。望(満月)のときに起こる。日食と違い、月が地平線より上に見える場所であれば地球上のどこからでも同時に観測・観察できる。

すべての部分が本影(地球によって太陽が完全に隠された部分)に入る場合を皆既月食 (total eclipse)、一部分だけが本影に入る場合を部分月食 (partial eclipse) という。

月食は多くの場合1年間に2回起こるか起こらない年、3回起こる年もあり21世紀100年間では合計142回(皆既月食85回、部分月食57回)生じる。今年の皆既月食は、616日についで2回目となる。

 

参考資料

AstroArts 1210日皆既月食

ウィキペデイア 月食

 

死亡した元Apple社CEO  Steve Jobs氏が罹患した稀な腫瘍

膵神経内分泌腫瘍Pancreatic neuroendocrine tumor(PNET)の肝転移

 

Steve Jobs氏は、去る10556歳の若さで "膵神経内分泌腫瘍(NET)" で亡くなった。

膵臓癌とされていたが、2003年にNETの診断を受け2004年に膵臓腫瘍を摘出され、肝転移で再発し2009年には肝移植を受けている。その後、1年半後に死亡している。このような悪性度の高いNETを神経内分泌癌Neuroendocrine carcinoma(NEC)と呼ばれることも多い。 

jobs1.JPGのサムネール画像 InternetSteve Jobs Neuroendocrine tumorで検索すると多くの報道がなされているので参照されたい。中でもCNNによるものが良いと思われる。

 

一般的に膵癌は、予後の悪いまたしばしば発見が遅くなる腫瘍であるが、Jobs氏の膵腫瘍は約8年極めて長い経過である。膵癌には、2種類あり通常の膵癌は腺癌でありもっと予後が悪く経過もはるかに速い。膵癌の中5%位(稀な腫瘍)にNETがあり、この場合は、比較的早期に肝転移をするが、経過は長い。

 

この腫瘍は、100年前にOberndorfercarcinoidと呼んでその名前が定着して来ていたが、最近になって神経内分泌腫瘍NETと呼ぶように臨床医、病理医ともコンセンサスが得られてきている。昨年の10月にはWHO tumor classificationによって膵・消化管NETはその増殖能によってNET G1, NET G2 NECと分類されておりその位置付けが明確となった。病理学的には、NETと診断する場合は、転移する可能性を持った悪性腫瘍であることを伝えることが重要である。

 

神経内分泌腫瘍NETは、私が病理医として早くから興味を持っている領域であり、最近ではソマトスタチンアナローグ(SA)Novartis社)が分子標的治療として使用されるようになり、その治療効果の予測のためソマトスタチンレセプターSSTRを免疫組織化学により検出して臨床へのフィードバックを行っている(三田病院HP)三田病院外からの依頼が多いが、Jobs氏のような、膵NECの肝転移の症例も多い。Jobs氏がSA治療を受けたか否かは明らかでないが、2つの新しい治療薬がクロースアップされている:(1) sunitinib, (2) everolimus. これらの薬剤は今年度米国のFDAに認可になっている。

 

jobs2.JPG 神経内分泌腫瘍(NET)は悪性腫瘍であり、発生率は高くないものの、ホルモンを産生し症状を示す、早期から肝転移が問題となる、など経過は長いものの厄介な疾患である。

 

今回のJobs氏の報道をきっかけにして、NETが更に市民権をえて、より良い治療が行われることを期待している。

 

 

 

 

以下の雑誌にも詳細に取り上げられている。

Asahi Shimbun Weekly AERA 2011.10.31「ジョブズがんの真相」

1228日、29日と二日間にわたり例年通りUSCで医学部一年生の病理学Neoplasia III, IVの講義実習を担当した。

USCキャンパス.jpgのサムネール画像のサムネール画像USCの病理教育は1年生(Medical School)の最初から行われ、他の臓器の講義と一緒に病理が始まるが、顕微鏡実習は行わない。

 

学生には、実習で用いられるPower pointスライドのannotationのないものをWebで閲覧できるようになっている。その内容をあらかじめ作製したVirtual slide(国際的にはWhole slide imaging; WSIと称される)を一緒に学ぶよう指導されている。

 

USC授業風景.jpgのサムネール画像のサムネール画像午前中のNeoplasmの内容であるが

8:00-9:00  Faculty meeting(その日の教育内容の打合せ)

 

9:00-10:00  Lecture(講義は前ChairDr. Clive Taylorが通常行う)

 

10:00-12:00 Lab  7グループに分かれてannotationの付された同じPower pointを使って学生にプレゼンテーションさせる。

 

内容的には、(1)代表的な腫瘍病理画像(肉眼、組織像)を説明させる、(2)あらかじめ閲覧している腫瘍の4症例をannotation付きpower pointでプレゼンテーションさせる、ことが主体であった。

学生は、組織像、細胞像には慣れていない者が多く、基本的な質問が多く出された。私のグループは24名であったので、6人ずつの4グループに分けて4症例についての検討をさせて後にプレゼンテーションをさせた。30分の準備時間を与えたが積極的に具体的な質問が多く出され、応える私の方も "学生がわかること、わかっていないこと" が明白となり、やりやすく感じた。その多くのやり取りの中で、これまでにはなかった "学生との距離の近さ" を感じたことに私は教員としての手ごたえを充分に感じることができた。

2回とも、終了時全員に拍手をされて "Thank you" "Good luck" で終わることができたのも今年が初めてであった。

学生の気質なのか私が慣れてきたのか(意気込みが違ったのか)考えているところである。