-死亡した元Apple社CEO Steve Jobs氏が罹患した稀な腫瘍-
膵神経内分泌腫瘍Pancreatic neuroendocrine tumor(PNET)の肝転移
Steve Jobs氏は、去る10月5日56歳の若さで "膵神経内分泌腫瘍(NET)" で亡くなった。
膵臓癌とされていたが、2003年にNETの診断を受け2004年に膵臓腫瘍を摘出され、肝転移で再発し2009年には肝移植を受けている。その後、約1年半後に死亡している。このような悪性度の高いNETを神経内分泌癌Neuroendocrine carcinoma(NEC)と呼ばれることも多い。
InternetでSteve Jobs Neuroendocrine tumorで検索すると多くの報道がなされているので参照されたい。中でもCNNによるものが良いと思われる。一般的に膵癌は、予後の悪いまたしばしば発見が遅くなる腫瘍であるが、Jobs氏の膵腫瘍は約8年極めて長い経過である。膵癌には、2種類あり通常の膵癌は腺癌でありもっと予後が悪く経過もはるかに速い。膵癌の中5%位(稀な腫瘍)にNETがあり、この場合は、比較的早期に肝転移をするが、経過は長い。
この腫瘍は、100年前にOberndorferがcarcinoidと呼んでその名前が定着して来ていたが、最近になって神経内分泌腫瘍NETと呼ぶように臨床医、病理医ともコンセンサスが得られてきている。昨年の10月にはWHO tumor classificationによって膵・消化管NETはその増殖能によってNET G1, NET G2 NECと分類されておりその位置付けが明確となった。病理学的には、NETと診断する場合は、転移する可能性を持った悪性腫瘍であることを伝えることが重要である。
神経内分泌腫瘍NETは、私が病理医として早くから興味を持っている領域であり、最近ではソマトスタチンアナローグ(SA)(Novartis社)が分子標的治療として使用されるようになり、その治療効果の予測のためソマトスタチンレセプターSSTRを免疫組織化学により検出して臨床へのフィードバックを行っている(三田病院HP)三田病院外からの依頼が多いが、Jobs氏のような、膵NECの肝転移の症例も多い。Jobs氏がSA治療を受けたか否かは明らかでないが、2つの新しい治療薬がクロースアップされている:(1) sunitinib, (2) everolimus. これらの薬剤は今年度米国のFDAに認可になっている。
神経内分泌腫瘍(NET)は悪性腫瘍であり、発生率は高くないものの、ホルモンを産生し症状を示す、早期から肝転移が問題となる、など経過は長いものの厄介な疾患である。
今回のJobs氏の報道をきっかけにして、NETが更に市民権をえて、より良い治療が行われることを期待している。
以下の雑誌にも詳細に取り上げられている。
:Asahi Shimbun Weekly AERA 2011.10.31「ジョブズがんの真相」
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