私は1970年に医学部卒業し医師になって50年を迎える。この間の病理学の変遷を振り返ってみたいと思う。
卒業後病理学教室に入局したが、すぐに渡米した。8月から米国コロラド州デンバー(Denver)にあるコロラド大学メデイカルセンター(UCMC)で病理レジデントとして病理学習得のため大いに励んだ。これが私の病理学人生の始まりである。
この50年間の"病理人生"には、波がいくつかある。免疫組織化学、分子病理学、デジタル病理学が代表的と言える。免疫組織化学はコロラド大学留学中の1973年に中根一穂(Paul K. Nakane)教授の元で習得し、その方法は帰国してからわが国で急速に普及し研究・診断に応用されやがて黄金期を迎えることになる。今では、市販抗体も数多く普及し、さらに自動化されて現在に至っている。1990年頃から免疫組織化学と並行して普及し始めた分子病理学は、ウィルスの同定に始まり、癌の遺伝子変化の解析に移行して、現在では次世代シーケンサー(Next Generation Sequencer)としてのパネル検査へと発展している。病理画像をデジタル化して、診断に応用するデジタル病理学は日常の診断のみならず、遠隔診断に用いることが期待される。さらにはデジタル画像に人工知能AIを応用して病理診断の自動化を行うまでになっている。私の50年のキャリアの中で、これらの大きなイベントを経験し、少なからず貢献できたことは無類の喜びと言える。
免疫組織化学、遺伝子(ゲノム)解析*、デジタル画像などが病理学に導入され、病理診断の精度が上がり、治療への応用が具体化し、診断自動化などが現実のものとなっている。これに関する多くの医療機器が海外から輸入されているのも事実である。我が国で現在死因のトップを占める癌の早期発見、早期治療はすでに軌道に乗っている領域もあるが、中には膵癌のように進行癌で発見される例も少なくない。ボーダーレスになって来ているがん医療、早期発見早期治療に、我が国の病理学が発信する新しい情報に大いに期待したい。
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