一部の国(たとえばドイツなど)、あるいはわが国でも一部の病院など例外はあるが、院内での患者死亡に比しての剖検率が著明に減少している。
原因は種々あると思われるが、画像診断のほか種々の診療技術の発達により、病態診断はかなりの部分が生前に可能となり、当初の[古典的な]臨床診断を確認・追従する意味での剖検の意義は顕著に低下して来たものと理解できる。また、患者の術後の状態の確認のみの剖検の臨床的意義・興味は希薄化してきている。
我々医療従事者は、近年の医療の進歩に伴って、剖検の意義が明らかに変貌し、現在では剖検の診療行為の一部としての意義が著明に増加していることを認識すべきである。
たとえば、内科系の全身疾患・臓器主体の疾患(膠原病、代謝疾患など)の全貌は剖検により始めて明らかとなり、診断と治療の影響などの解明は剖検での組織・細胞レベルで解析する以外に方法はない。
また、悪性腫瘍の治療後の状態Pathological Complete Response(pCR)などの評価をする際に、治療効果と直結した細胞の変化など剖検による細胞レベルでの解析により始めて明らかとなる。各種"がん"の治療にも次々と特異的な分子標的治療が開発され臨床応用されてきている。
最終的な治療効果の判定あるいは残存腫瘍の"生物学的特徴"など剖検による解析が必須となる。
いずれにしろ、このような剖検によって得られた情報は診断・治療された特定の患者の直接的な病態診断にとどまらず、将来の"よりよい"診断治療に反映されるべきものである。
その意味で、剖検を基盤としての"組織・細胞バンク"も院内で構築されることが望ましいとかんがえる。
一方、教育的な見地からの剖検の重要性はもっと強調されるべきであり、若手医師、熟達医師を問わず剖検には、上記に述べられるような極めて多くの貴重な情報が得られることを認識し、日常の診療精度の向上のため、CPCを含めた「臨床と病理の密接な検討会」がより活発に行われることが要望される。
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