2013年5月アーカイブ

アーサー・ヘイリー著 永井淳訳   英文原本1959年版 日本語訳昭和50

 

先日、偶然に部屋の書庫を眺めていたところ"最後の診断"が目に入り、再度読んでみた。

 

最後の診断 表紙.jpg 

ジョーゼフ(ジョー)・ピアスン 病理部長

マイク・セドンズ  医学部学生

ルーシー・グレンジャー  整形外科医

デーヴィッド・コールマン  新任病理医

ケント・オドーネル  外科部長

 

場所:スリー・カウンテイズ病院  

所在地:ペンシルベニア州バーリントン

 

 

 

 

ジョー・ピアスンは、アメリカ型の病理部長で、いわゆる病理診断および臨床検査医学をカバーしている。これまで、血液型不適合輸血による、幼児の赤芽球症Erythroblastosisでの死亡、赤痢などの重篤な感染症が院内感染、など多くの問題の責任を問われていた。

話のトピックの一つが病理診断である。

医学部学生マイクのガールフレンド、ビビアンが発生した 膝の腫瘍を ピアスンは骨肉腫と診断し、新任の若手病理医コールマンは良性と診断した。病理診断のコンサルテーションをボストンとニューヨークに出したが、両者でも意見が分かれる。病理診断の結論は、ピアスンが責任を取る形で骨肉腫の診断となった。ルーシーがビビアンの足の切断を施行する。その足の"切り出し"[外科手術にて摘出した検体を顕微鏡標本にする作業]をしていたコールマンは腫瘍が悪性であることを確認する。

 

1959年にアーサー・ヘイリーが書いた本著書。私が14歳の時に米国で出版されたことになる。私は1970年から米国で病理の研修始めて、アメリカ型の病理診断を習得したが、その頃体験した通りの内容である。この30年程の間に、病理診断を取りまく技術、機械化など著しい変遷を遂げてきた。現在は、病理診断に難渋する際の確定診断、あるいは予後・治療方針のために、しばしば遺伝子の解析などが行われる。このような背景にあって、骨肉腫は、悪性度の極めて高い腫瘍の一つであり、現在でもその診断が難しいことが良く知られる。多くの悪性腫瘍の詳細が明らかにされてゆく中で、骨肉腫も徐々にその遺伝的背景が明らかに去れている。American Cancer Society Do we know what causes osteosarcoma? Inherited gene changes. Acquired gene changes  Last Medical review 01/08/2013)

 

医学はこの50年間に目覚ましい発展をとげたが、このように、アーサー・ヘイリーが取り扱った病理診断の題材には、今でも新鮮さを感ずる。著者に敬意を表する次第である。  

 伊集院 静 著 [角川書店]を 読んで

 

逆風に立つ 表紙.jpg自らも野球選手であり、米国メジャーリーグにも通じている伊集院静氏による 松井秀喜氏についての素晴らしい著書である。伊集院夫妻との交流も暖かく描かれている。

わが国の巨人軍で名声を博していた松井選手がメジャーリーグのニューヨークヤンキースへ移籍した時のことば、"日本のファンを裏切るかもしれない""やるからには命がけでやる"が印象的に語られている。あえて逆境に自分を発たせて、頑張る松井の人生感の表れと言える。

 

松井選手は、人に対して礼儀正しく真摯に対することが身に着いており、子供の頃食事の時に父親から"他人の悪口を絶対に言わないこと"を指摘され約束し、それを違わず実行していることも素晴らしい。アメリカの社会では、なかなかないことと思われるが、松井選手がヤンキースで充分に活躍出来ずにチームが負けた際には、監督に自分の働きが悪くチームが敗戦し申し訳ない"と謝罪した。これには、トーリ監督と同僚のジータ選手も感激し生涯の友情を培うこととなった。

本書のところどころに、「人の悪口は言わない」「誠心誠意生きる」「善意は黙って実行」

などが表現され 松井選手の素晴らしい生き方が手に取るように分かる。

また、生涯の師となる長嶋茂雄氏からは見えないところで"練習"をすることを厳しく叩き込まれる。今回、国民栄誉賞を二人で受賞したことは素晴らしい。

本書は、人間愛、友情、野球への愛を中心とした松井像が 素晴らしい文章でつづられている。 これからチャレンジする若い人に進められる名著といえる。

 

先日の5月5日に、東京ドームにて松井秀喜氏と長嶋茂雄氏の国民栄誉賞の受賞式が執り行われがが、その中にも松井氏が長嶋氏を師と仰ぎ敬う姿をみて、本書の松井像が真であることが実感した。