2012年8月アーカイブ

 村松友視著 "裕さんの女房 もう一人の石原裕次郎"

 

本書は、石原裕次郎に関する最新の書と思う。著者が石原まき子さんとの対談を一冊にまとめたもので、石原裕次郎に変らぬ魅力を感じている私にとって、裕次郎を身近に感じる書として興味を持って一気に読むことができた。その中で数カ所"病理"という言葉が出てくるので、このブログを書く気持ちになった。

 

裕さんの女房カバー.jpg

 

裕次郎とまき子夫人との出会い、心の触れ合いなど心温まるし、裕次郎が実際にどのような生き方をしていたかなど良くわかりほほえましい。

裕次郎は、私達にとってタフで格好いいイメージだが、スキーでの大骨折、舌癌、そして最後は解離性大動脈瘤などを患い、病院とは縁の深い人であったことが窺われる。

骨折で入院しているときに、重篤な病の佳子ちゃんを知り、力になろうとする。退院後はひそかにお見舞いに行っている。心打たれる逸話である。

 

病理に関して:まき子夫人の日記の一部が記されている。

舌の裏側に粟粒大の異物が出現。慶應病院に検査入院となる。

 

P238

十二月十一日()

第二回抜糸、病理の結果出る。(11日―13日まで)悪夢。 (舌癌であることを知る)

(その後、コバルト照射の治療を受ける。癌が消失するか非常に気にされていることが記されている。)

 

P246

九月十五日()

....12:30 小林さんより連絡あり、東大の病理の結果で、あの病気は一さい心配ないとのこと。一度に信じられなかった、苦しみが余りに長かったからだろうか。

この非常に短い部分であるが、私には、まき子夫人を始めおよび裕次郎の周りの人たちが、病理診断の結果を"心待ち"にし、その結果によって"一喜一憂"している様子が良くわかり、病理医の私にとって極めて貴重であった。

 

実際の事象は、ずっと昔の事ではあるが、すでにその頃にも"病理診断"が家族、周辺の人々に重視されていたこと、またそれが"石原裕次郎"であったことは、病理医の私として"誇らしく"感ずる次第である。

現在では、更に患者様、家族、周囲の人々に病理診断の存在が広く知れ渡っているものと期待したい。

 

 

昨今、全世界的な風潮として剖検数が激減してきている。

 

一部の国(たとえばドイツなど)、あるいはわが国でも一部の病院など例外はあるが、院内での患者死亡に比しての剖検率が著明に減少している。

原因は種々あると思われるが、画像診断のほか種々の診療技術の発達により、病態診断はかなりの部分が生前に可能となり、当初の[古典的な]臨床診断を確認・追従する意味での剖検の意義は顕著に低下して来たものと理解できる。また、患者の術後の状態の確認のみの剖検の臨床的意義・興味は希薄化してきている。

  顕微鏡と病理.jpgのサムネール画像

我々医療従事者は、近年の医療の進歩に伴って、剖検の意義が明らかに変貌し、現在では剖検の診療行為の一部としての意義が著明に増加していることを認識すべきである。

たとえば、内科系の全身疾患・臓器主体の疾患(膠原病、代謝疾患など)の全貌は剖検により始めて明らかとなり、診断と治療の影響などの解明は剖検での組織・細胞レベルで解析する以外に方法はない。

 

また、悪性腫瘍の治療後の状態Pathological Complete ResponsepCR)などの評価をする際に、治療効果と直結した細胞の変化など剖検による細胞レベルでの解析により始めて明らかとなる。各種"がん"の治療にも次々と特異的な分子標的治療が開発され臨床応用されてきている。

最終的な治療効果の判定あるいは残存腫瘍の"生物学的特徴"など剖検による解析が必須となる。

 

いずれにしろ、このような剖検によって得られた情報は診断・治療された特定の患者の直接的な病態診断にとどまらず、将来の"よりよい"診断治療に反映されるべきものである。

その意味で、剖検を基盤としての"組織・細胞バンク"も院内で構築されることが望ましいとかんがえる。

 

一方、教育的な見地からの剖検の重要性はもっと強調されるべきであり、若手医師、熟達医師を問わず剖検には、上記に述べられるような極めて多くの貴重な情報が得られることを認識し、日常の診療精度の向上のため、CPCを含めた「臨床と病理の密接な検討会」がより活発に行われることが要望される。

資料をご参照ください。Molecular(Genomic) Pathology USCAP 2012.pdf

 

USCAP表紙.jpgのサムネール画像 

 

バンクーバーにてさる317日―23日までUSCAPが開催されて暫く時間が経過したが、ある機会を得てそのプログラムの中に占める分子病理が極めて多いことを感じた。

 

 

 

 

 

バンクーバーでのUSCAPは参加者が4458名とこれまででの一番多かったと報告されている。

その中で、Special Couse2テーマは分子病理関係であり、Companion Meetingでも殆どのタイトルが分子病理を扱っている。

また、レジデントの教育にも既にプログラムがあり、Genomic Pathologyという名称がつかわれている。

私もGenomic Pathologyが相応しい名称として普及して行くこと希望している。

 

いずれにしろ、まぎれもなく分子病理 Genomic Pathologyの時代が来ている。この新しい病理の息吹に 若い医師、学徒を大いに誘いたい。