病理診断も、顕微鏡標本を主体に、病変の本態を診断し、治療に反映すことの本質に変りはないが、その内容に近年目覚ましい変貌が予測されている。
その中で、2つの特記すべき事項をあげたい。
1. 分子病理診断の導入
形態診断は基本であるが、そこに更なるより適格な情報を提供するために、組織細胞内の遺伝子解析の重要度が増してきている。すなわち、癌の診断において、
(1)確定診断、(2)予後の予測、(3)治療効果の指針など までの方法では充分カバーしきれなかった重要な情報が遺伝子を解析することによって可能となります。
乳癌において、HER2遺伝子の増幅(数が増える)、過剰発現(蛋白が増える)などはモノクローナル抗体(Trastuzumab)の効果の予測因子として重要です。その他、造血器腫瘍、消化器腫瘍、肺癌など多くの種類の腫瘍において遺伝子解析が重要となってきている。また、細胞診の領域でも、子宮頚部の異型細胞が見いだされた場合、ヒトパピローマウィルス(HPV) のDNA解析も要求される。この際に、子宮頚癌の発生と深く関連したhigh risk HPV DNAの検出は重要である。最近では、このように遺伝子およびDNAの解析をする病理学分野をMolecular Pathology "分子病理" と呼称してきている。
HER2 IHC 3+ HER2 FISH amplification HER2 DISH amplification
もうひとつの特記すべき領域は、画像病理診断DPである。現在、癌などの疾患の最終診断は、病理の組織・細胞標本を電子化デジタル化することによって、その画像を用いて診断する方法である。それには、現在組織切片全体をデジタル化してコンピュータのモニター上であたかも顕微鏡を見ている感覚で視野を動かし拡大の上げ下げの出来る装置が急速に多くの会社で開発され多くが市場に出回っている。
デジタル化することにより、 (右下の画像のサイトへ ID/PWは図中に記載)
1. 診断前夜に取り込んでおいたデジタル画像で組織診断をモニター上で行う。
2. デジタル画像を他施設に送りコンサルテーションをする。
3. 遠隔地からの画像を受信して遠隔病理診断テレパソロジーを行う。
4. 国際的な連携を深める
5. ほか
などなど多くの利点があり、諸外国(特に北米)でも我が国でも病理診断のデジタル化が急速な勢いで進んでいる。"顕微鏡からデジタル画像へ"の動きは後10年ほどで完了するとも予測されている。
以下に、昨年カナダのトロント大学のDr. Sylvia Asaが講演した中で、2020年と題して "Pathology Cockpit" の予想図が提示された。
これによれば病理医は、 "PathologyCockpit" のモニター上で臨床情報、肉眼臓器の所見、組織細胞所見および遺伝子情報に同時にアクセスすることができ、診断精度を高めるという構想である。
若い学徒を "新しい病理学" へ誘う
このように、病理診断分野も、基礎的研究をベースに、かつ技術革新を取り入れることによって、大きく変貌しようとしている。薬理学、分子生物学、物理学などを充分に習熟した病理医が求められている。是非、若い諸君の病理学への興味がこの方面に向いてくることを大いに期待しいている。