2009年11月アーカイブ

第114回日本解剖学会総会シンポジウムより 2009年3月29日

下垂体を中心とする内分泌形態学の末来を語る一前葉細胞の分化・増殖と組織構築―

「下垂体を中心とする内分泌形態学に未来を語るー
  機能分化、腫瘍化、そしてその制御・修復―ヒュ-マンサイエンスの未来に向けて」
東海大学医学部基盤診療学系病理診断学 長村義之
Differentiation, oncogenesis, regulation and repair in pituitary cells-Future frontier in human science

下垂体細胞を含めペプチドホルモンを産生する[神経]内分泌細胞には、形態学的に特徴的[他では見られない]分泌顆粒(Secretory granule:SG)という構造が存在することが長く知られている。SGは細胞膜上に存在する種々のレセプターとともに細胞の機能的制御機構を担っている。我々が内分泌マーカーとして使用しているクロモグラニンA、Bがその形成の誘因となっていることが判明してきている。内分泌疾患の病態として、臨床的に問題となるのは、腫瘤の形成と腫瘍化した細胞からのホルモンの過剰分泌である。一方、ホルモン産生細胞においては、"なぜ特定のホルモンが産生されるのか"という疑問があったが、それは種々の転写因子・共役因子の関与により多くの部分が解決されてきている。
H&E染色をはじめとする古典的な染色法は今もって重要であるが、その上で免疫組織化学、遺伝子解析(RT-PCR、Real-time RT-PCR、mutational analysis、FISHなど)により細胞の分化・機能状況を総合的に解明することが可能になってきている。遺伝子改変動物は疾患モデルとして特定の遺伝子の機能解析に極めて重要である。またこれまでにシグナル伝達に関わる多くのタンパクもクローニングされている。細胞株の樹立(Cell line)およびLaser microdissection法は、個々の細胞での詳細な解析を可能とし、それ故その任は、益々増すであろう。 
このような、科学的背景において、多種の細胞が混在する下垂体およびその腫瘍での解析は、他の内分泌細胞に先駆けて多くの知見が得られ、モデル的役割を果たしてきている。  "特定の細胞に特定の転写因子が発現する分子機構"、"なぜ特定の細胞だけが腫瘍化するのか"、"細胞増殖・浸潤を規定する因子は何か"、など形態学に根ざした研究はその更なる進展の途に就いたばかりであり、"腫瘍細胞の修復"という個別化されつつある治療法も視野にいれ大いに期待されるところである。最近随所で論議されているStem cell biologyが新たな"夢"として突破口を与えてくれるかもしれない。我々がこれまで長くの研究対象にして来たヒト下垂体腺腫は、クリニカルサイエンスの様々な局面において、"科学的な夢"を語る宝庫と言えよう。

細胞診と日本臨床細胞学会

       特定非営利法人 日本臨床細胞学会
          理事長  長村義之(おさむらよしゆき)

日本臨床細胞学会の理事長を拝命致しました長村義之(おさむらよしゆき)でございます。
皆様は細胞診という言葉をお聞きになったり、実際に体験されたりした方も多いのではないかと拝察いたします。多くの女性を対象に行われる"スクリーニング"検査である子宮がん検診では必ず子宮頸部細胞診が行われ、子宮頸部から採取された細胞を顕微鏡で丹念にみて、異常[異型]細胞の検出がなされています。子宮頸癌の原因の主体がヒトパピローマウィルス(HPV)であることが判明してきた現在、細胞診と同時にHPVの感染(それも癌化に関連したタイプ)の検出も重視されてきています。ここで異常細胞が検出された場合、コルコスコピーを、さらには組織生検(病理専門医によって診断が行われます。日本病理学会のホームページをご覧ください)が行われます。このような、検診・スクリーニングには、他に肺癌の細胞診があり、喀痰および気管支擦過・洗浄細胞診も近年増加の一途をたどっている肺癌の検出に重要な位置づけになっています。また、近年では穿刺細胞診(FNA)といわれる診断法;"しこり"(乳腺、甲状腺、リンパ節など表面に触れるもの)に細い針を刺して、そこから細胞を採取し、顕微鏡で見て診断する方法、が普及してきました。ここでは、乳癌、甲状腺癌、がんのリンパ節転移などの"癌の確定診断"が行われ、実績を挙げてきています。その他にも、尿の細胞診(膀胱癌、前立腺癌などの検出)、胸水・腹水の細胞診(癌細胞があるかどうかを診断)などがあり"液状検体"と呼ばれています。
我が国においてこのような細胞診は、細胞診検査士と細胞診専門医の連携により行われています。検査士の方々は、膨大な量の細胞診標本を見て、その中から異常な細胞(前癌状態など)を見分ける重要なステップをになっており、その方々は細胞診の充分な修練を積んだ上で学会認定試験に合格しており、充分に信頼されています。検査士により選び出された"異常細胞"は最終的に、医師である細胞診専門医により最終判定(診断)がなされます。
現在、日本臨床細胞学会では、4,334名の医師[そのうち2,369名が学会認定専門医]、6,631名の技師(そのうち6,490名が学会認定検査士)を擁しており、がん検診および諸腫瘍疾患の診断に貢献しています。平成19年に制定されたがん対策基本法においても、検診率の向上がうたわれており、細胞診も皆様のがん予防・診断に大いに寄与しています。 
以上、日本臨床細胞学会のご紹介ですが、更に詳細をお知りになりたい方は、ホームページ http://www.jscc.or.jp/  をご覧ください。日本臨床細胞学会が更に皆様の医療に貢献出来ますよう、ご協力を宜しくお願い申し上げます。